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著作権法31条とその周辺

アクセスログを拝見すると、著作権法絡みで見に来ていただいている方が多く、とても恐縮しています。
専門的な人が多いためか、細かい表現のチェックが手厳しいなぁと、思ってみたり。(それはそれで勉強になりますから、いいのですけど。)
今回も、前回に引き続き、図書館にあるコピー機周りの話です。

判例検索システム(http://www.courts.go.jp/search/jhsp0010?action_id=first&hanreiSrchKbn=01)でふにふにと検索してみたら、こんな判例が出てきました。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/A78B418D57307DB549256A7600272B97.pdfおよびその控訴審http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/84AF6002BC8A907C49256A7600272B2E.pdf

(判例の文章がわかりにくいので外さないようにわかりやすく書いてみます)
利用者Aがある図書館である事典の複写請求をしたら「それだと著作物の全部だから出来ません」だと言われたので、その利用者は
1.著作権法31条1項に基づく複製権が自分にあること
2.その事典は公共的著作物(だと考えられるので)だから全部コピーしてもいいじゃないか
3.それに請求はその本の一部分の数ページなんだから自分に複製権があること
4.この事典は発行後14年経っているのだし、「発行後相当期間を経た定期刊行物」と同じような解釈できるでしょ?
5.だから著作権法上問題ないはずなのでコピーを交付してくれ
4.そして図書館は精神的苦痛分の10万円払ってくれ
と裁判にて要求。

図書館側は
1.利用者個人に複製権があるわけでない。
2.事典が公共的著作物ってわけではない。
3.その事典は、それぞれの項目に著者名が書かれているので、編集著作物であるけど、その請求部分は1人の人が書いているからそれで1著作物と考えられるので、その請求は全部になる。
4.定期刊行物と同じように解釈できるということはない。
5.各項目がそれぞれ1著作物なんだから、認められない。
と主張。

結果、
・著作権法第31条は一定の要件のもとに図書館で一定の範囲で複製することができると規定したもので、図書館に対して複製物の提供を義務付けたものではない。(私が前に書いた『図書館は著作権法に基づいた複写を必ず提供しなければいけないというわけでない』ってこと。)
・まして、利用者に複製権を与えるとか複製権を定めたってことではない。
・複製サービスのお知らせは行政サービスの周知であって複製物の交付契約や予約契約でもない。
他、図書館の主張が認められ、棄却されました。
で、控訴したけど、やっぱり却下。

少し補足。
著作権法で保護されるのは著作物全てってわけではありません。
憲法の条文や法律の条文とかは作った人がいて、著作物ではあるけど、著作権の権利の目的とならないものもあります。
そういうのがあるので、『公共的著作物』という言葉でその利用者が要求しているんでしょうが…少なくても13条(権利の目的とならない著作物)に事典の類っていう言葉はありません。
それと、各項目に著者名があると、百科事典などの小さな項目といえど、その項目1つで1著作物って判断になります。(まぁ、この判例が出たから特に。)
ただ、同じような百科事典でも、最後にまとめて執筆者一覧となっていれば、どの項目までが誰が書いたかわからないので、共同でって考えも可能なので、1冊の半分までは可能です。(たぶん)

と、前置きとして、前回の白黒はやはり、判例が出ていないとなんとも言えないってことをご理解していただければ。
この裁判を起こしてくれた利用者みたいな方が「最新の時刻表(番組表)をコピーさせてくれなかった」とか「スーパーの広告をコピーしたかったのに」とか裁判を起こしてくれれば、判例ができてそれを基準にできるのですけどねぇ。
逆に権利者が「図書館でそんなにコピーさせやがって」と裁判をしてくれるか…(著作権法は親告罪なので)
判例が増えると、利用者にも「そういう判例が出ているので、判例に従うとこういう判断になります」みたいに説明しやすいんですけどね。笑

ついでに、前回の補足気味に、少し書いて、今日の本題に入ろうと思います。
図書館と著作権法について考えると、31条の他に、これも以前書いた映像著作権の問題(DVDの補償金云々とか)とか、たくさん絡むことが多いです。やっぱり、本をはじめとして著作物がたくさん集まっているところだからでしょうか。

図書館には大昔に書かれた資料から、最新の雑誌やDVDなどがありますからね。
大昔…例えば江戸時代以前などに書かれたものなど貴重書の類になる資料は、実際的には著作権法上保護されないので、現行法上は複写することができますが、資料の保存の観点から複写を拒否できますし、青空文庫などであるような著作権保護期間の切れたものであれば、(たぶん)全部複写できますが、注とか編集著作物性が見受けられるところは、図書館の判断ということになります。

なので、「もうこの著者は亡くなって50年経ったかなぁ」とかちゃんとチェックしないといけないのですが、なかなか全員に徹底できなかったりします。(微妙な人の没年を調べるのがこれまた大変)
利用者側も、先にあげた裁判の利用者のように、「図書館にある資料はコピーして良いはずだ」式の人も確かにいますから、『「することができる」と「させなければいけない」は違うのです』と理解していただくまで丁寧に説明する必要があります。

さて、図書館に置かれている複写機の運用について考えてみると、この複写機は31条に基づいて設置しています。
なので、私物のコピーなどはできません。(と前にも書きましたけど、確認。)
ということは、30条の私的複写…

(私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一  公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
(以下略)

が、図書館という場所で公衆の使用に供している感じでも、できないのです。(一時期30条で複写させる図書館があって話題になりましたが。笑)
つまり、31条のためだけにあるって感じ。

そうすると、保護期間の切れた著作物の複写とか、42条(裁判手続等における複製)とかもできないんじゃないかと思ってみたりします。
逆に31条以外の複写が可能であれば、もちろん「30条でもやらせろ」って話も出てきますし…(この辺の話は『著作権法第31条と35条及び42条の関係について』という権利者側の話です)。
(これは去年の図書館大会での)「31条の存在が(42条の)複製物の提供を拒否する根拠にはなりえない」ってことになるんですけど、そうすると30条のみ拒否っていうのはもどかしい感じもしますね。
(話が複雑になるので省略したけど35条(学校その他の教育機関における複製等)の複写も生涯学習機関として図書館を考えると拒否しなくても良いかと)

手続き上は、うちの図書館の場合、『図書館運営規則』に基づいて、『図書館において、図書館資料の複写をしようとする者』(31条に基づきとは書いていない)が申し込み書を提出とあるので、複写申込書を記入してもらい、この規定で複写したら実費徴収という条項もあるので、あまり変わらないです。
(ちなみに、うちの館の複写機は通常電源OFFなので、申し込みを受けて初めて電源を入れるため、「著作権が切れているはずだから」とか「42条だから」って勝手にコピーできません。全て申請書を見て確認してからとなります。(30条における申請はもちろん拒否ですが))

で、30条でどうしてコピーできないのかは、(社)著作権情報センターのぺージ(http://www.cric.or.jp/qa/cs03/cs03_3_qa.html)で書かれていますように、『「文化的所産の公正な利用に留意」しつつ権利者の保護を図ることを目的とした著作権法を曲解している』ということらしいんです(曲げようが解釈は解釈?)が、逆にその後段が私はちょっとひっかります。
ようは公衆の使用に供する複写機での複写は本来であれば(附則5条の2(自動複製機器についての経過措置)がなくなれば)私的複製にも該当しなくなるってことなんですよね、そうすると私的複製機ではどうか…

というわけで、うまく次の話に持っていけます。笑
「じゃあ、誰でも使えるものでない、つまり私物の複製機なら30条でいいんでしょ?」と。
図書館でよくあるのが、携帯電話のカメラでパチリです。
他にもハンディスキャナを持ってきたりとか…図書館にある複写機ではないので、いいんじゃないかと。
著作権法上は、きっと大丈夫なんでしょうね。(30条は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」で『使用』に関して範囲を決めていて、複製場所については言及していないから。)

じゃあ、どこの図書館でも可能かと言えば、著作権法以外が実際にはひっかかってくるかと思います。
携帯電話のカメラだと音がするのでというのもありますが、館内における写真撮影禁止とあれば、音消ししたデジカメなども、管理運営上ご遠慮いただけると思います。
しかし、ハンディスキャナは…写真でないですよね。
当館では前述における『図書館において』を「図書館にある複写機」だけでなく「図書館という空間」として考えれば、図書館資料を利用する複写全てに申込書を書いてもらうことはもちろんOKで、不許可もできるとも考えられます。
(飲食物の持ち込みと一緒で、堂々とやっている人は見ないですが、見つけたとき、複写行為をご遠慮いただいて、それでもめそうだったら、この解釈で、とは思っています。今のところ、まだそこまでもめてはいないですけど。)

ただ、これらについて法的根拠があまりないので、なかなか難しいところでありますが、強いてあげれば、『所蔵者の有する所有権の行使』でしょうか…寺院とかの撮影禁止と一緒で。

図書館法的には複写サービスについては何もないので、後にも先にも著作権法第31条でしか図書館は判断できないですが、個人的には、グレーな部分のそういう問い合わせ機関を設立するとか、『図書館間協力で借り受けた図書の複製に関するガイドライン』『複製物の写り込みに関するガイドライン』(http://www.jla.or.jp/fukusya/index.html)のようなガイドラインか、その上のそれを含めた法律ができればなぁと思います。(別の意味で『著作権法第 31条の解釈・運用についてのガイドライン』を作ってと権利者側も言っていますけどね。(著作物の一部分の解釈の違い(20%にするように)とか、雑誌の発行後相当期間の運用(専門雑誌や文芸雑誌を除くように)とかそういう意味で…))
専門家のみなさんが法改正や法の設置まで辿り着くのはまだまだかかりそうなので、じゃんじゃん判例ができてくれた方が手っ取り早いですよね。
だから、権利者側のみなさんが、当事者会議で言うのならば、「図書館で半分コピーできるのはおかしい」とか訴えれば、それが判例になるのになぁと、期待しているのですけどね。
それと時間的・金銭的余裕がある人で、31条とか図書館と著作権法周りの判例を作ってくれる人がいると嬉しいなぁ。(仮に訴えられる方の図書館は、面食らうでしょうが、業界の共通認識のために犠牲になってください…(それならうちの館で??訴えられてみたい気もしますが、それはそれで大変そうだなぁ…))
でも、訴えられた図書館の論法によっては、一部分が20%になったり、現状よりマイナスになってしまうかもしれないとは危惧していますが、そうなったらなったで、従わざるを得ませんよね。
ただ、裁判所が解釈論に言及しない可能性も捨てきれないので、なんとも言えませんが。

それにしても、著作権法の附則5条の『自動複製機器についての経過措置』の当分の間はいつ終わるのでしょうかねぇ…コンビニから一斉にコピー機が消えたらそれはそれでビックリですが。笑
そうじゃないと、図書館で借りてコンビニでコピーがまかり通ってしまいますから…(じゃあ、図書館で貸すなって方向になるのでしょうか。確かに雑誌の最新号の貸出は著作権にかかる法的根拠ではなく、書店などの不利益を考慮してだと思いますし、それなら市販の本は?と権利者側に言われそうですけどね。)
どうも、著作権法について考えていくと、奥が深くて楽しいのですが、「あれはどうだろう?この場合は?」と難しい解釈論になってしまい、疲れてくることも多いです。やはり図書館が権利者でもなく、末端の利用者でもないからなんでしょうかねぇ…

ひとまず今日はこの辺で。(アクセスログを見て、このような長い駄文に色々な方が、最後まで(もちろん、ぱっと見て帰られる方もいるでしょうが)付き合っていただいているようなので、「いつも感謝しております」と一言添えさせていただきます。)

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