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選書と検閲

一昔前、船橋市西図書館蔵書廃棄事件では、図書館職員の思想によって一部蔵書が廃棄されたというのが問題になりました。最近では堺市立図書館のBL蔵書問題で圧力によって開架にあったものが書庫行き、そして当初は除籍・廃棄されそうな気配でした(結局、書庫行きで収まったようですが)。
もちろん思想的な図書や宗教的な図書をはじめ、裁判になった出版物など、多くの図書が図書館には保存されています。図書館は情報や資料を『収集』し、『保存』し、『提供』する場所ですからね…

まず、図書館は
・図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設(図書館法より)
・知る権利を保障する機関(図書館の自由に関する宣言より)
・社会教育のための機関(社会教育法より)
となっており、
『図書館法』は『社会教育法(昭和二十四年法律第二百七号)の精神に基き』あるもので、『社会教育法』は『教育基本法 (平成十八年法律第百二十号)の精神に則り』あるものですから、教育基本法の精神に反する資料が出版されたら、表現の自由と知る権利を取るか、教育基本法の精神を取るか悩むところです。

まぁ、同様に、公務員の図書館職員ですと、上司の命令に従う義務と図書館の自由に関する宣言を守るのとどっちを取るかというのもいつも悩ましいんですけどね。(図書館の自由に関する宣言では、図書館員が不利益をうける事態になったときは日本図書館協会が救済してくれるそうですが、本当にするのか、いや出来るのか…不安。笑(だって、文書を送って終わりのような気がして。))
(例えば、今回のBL問題騒動だって『今後は、収集および保存、青少年への提供を行わないことといたします。』って『「市民の声」Q&A』で書いちゃったんだから、おかしいんであって、そんなに時間をかけなくても、結論は出るはずなんですけどね。日本図書館協会がすぐコメントを出すかと思えたけどねぇ…)

参考までに、地方公務員法第三十二条では、
「職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。 」
とありますから、『職務上の命令』で「この本を除籍しなさい」という命令が出た時、「それは検閲だから拒否します」が可能かどうか…
もし、「図書館の自由に関する宣言」が、『図書館戦争』に出てきたような「図書館法」の一部であるならば、「法令の定める規定」になるので、良いのですけどね。
で、その拒否の後、人事的に職名変更(司書→主事)で強制異動となった場合、報復人事だと訴えても、「宣言」は宣言であって、法や条例ではないから「上司の職務上の命令に従う義務がある」と言われるのがオチですし。
気力体力や時間的金銭的余裕があれば、頑張れますけど、私は無理かも。

さて、上にあげたどちらの問題も、図書館外の人から見ると「最初から買わなきゃいいじゃん」となってしまいますが、資料収集する基準が各図書館で収集方針や収集基準として成文化されているところも多いですし、その成文化しているものを見ると、具体的に細かくというよりは、少々抽象的に「蔵書構成を考慮して…」とか「収集するように努める」など微妙な表現が多いです。
そこで、『図書館の自由に関する宣言』をもう一度確認すると…
「第1 図書館は資料収集の自由を有する」の中で
まず「図書館は、国民の知る自由を保障する機関として、国民のあらゆる資料要求にこたえなければならない。」とあるので、要は「利用者からリクエストがあったら提供しなさい」ってことが書いてあり、続いて、
(1)多様な、対立する意見のある問題については、それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する。
(2)著者の思想的、宗教的、党派的立場にとらわれて、その著作を排除することはしない。
(3)図書館員の個人的な関心や好みによって選択をしない。
(4)個人・組織・団体からの圧力や干渉によって収集の自由を放棄したり、紛糾をおそれて自己規制したりはしない。
(5)寄贈資料の受入にあたっても同様である。図書館の収集した資料がどのような思想や主張をもっていようとも、それを図書館および図書館員が支持することを意味するものではない。
とありますから、「出版されている資料は広く収集しなさい」ってことなんでしょう。

が、実際問題として、予算というのが限られていますから、そこの図書館で読めない資料は五万とあります。
ない資料を他館や国立国会図書館に求めても、国立国会図書館の納本制度をしても納本されていない資料もありますから、全ての資料を提供というのは無理です。

そこで、自館の収集方針と予算に見合う資料を収集すると、以前『所蔵の少ないものを知る権利』(http://c-town.way-nifty.com/blog/2008/09/post-d5c5.html)でも書きましたが、優先順位が低いものは所蔵館がなくなってしまうことになります。
だからといって、『図書館界のため、積極的に他館が所蔵していない資料ばかり集める』という図書館は地域住民などの反対(「利用したい資料がない」など)もありますから、優先順位的に高いものはやはり購入して、残りで出版された図書全体を見ながら購入となるでしょう。

まぁ、そんなに意識しなくても、リクエスト購入や職員による選書で、うちのような小さな館(蔵書7~9万冊)で、県内でうちしか持っていないのが450冊程度ありますから、もっと大きな館はもっとあるでしょうし(ということで、「普通図書館に所蔵されていない本が○○冊ある」って論議は無駄な話です。蔵書比率などで考えればいいのですが…)、利用者がリクエストした資料が県内に1~2館くらいの所蔵しかないというのもよくあるのですが、検索すると県内に全くないというのも多々あります。

利用者のリクエスト要求もほんと様々で、どこかで見ましたが「BLなんてリクエストするやついるのか」って書いていた人もいたけど、そういう人はやはり普通にいますし、あまり収集されていないライトノベルや携帯小説の単行本などは最近多いですね、マンガのリクエストもちらほら見ますし、極めつけは自分の本(自費出版も含めて)をわざわざリクエストしていく人まで…一応『資料要求』ですからね。

だからといって、『国民のあらゆる資料要求にこたえなければならない』は理想であり、現実とは予算的にも乖離しているという考えから、県内所蔵なしで且つ予算があまりなければ、その場で断ってしまう強気の図書館や「国立国会図書館に郵送費実費を利用者に負担してもらってならば云々」とか話をして、めでたく(?)キャンセルの方向で…と持ち込む図書館もありますし、逆に「提供はしてあげたい」と思いつつも、他館が購入するのを待ったり、寄贈を募ったりと提供までの時間がかかってしまう図書館もありますし(まぁ、確かに、「すぐこたえなくてはならない」ですからねぇ…限度はあるでしょうけど)、もちろん所蔵のない資料のリクエストがたくさんあったら対応できないでしょうが、利用者リクエスト用の予算として通常の資料費にあまり影響しない範囲でほぼ購入して所蔵する図書館まで色々な対応があります。
(利用者が1万人いたとして、1割の1000人が所蔵していないリクエストを数冊ずつしたらすでに予算オーバーってこともあるでしょうし)

それでも、利用者ニーズに合った選書をしていればリクエストも減るのでしょうが、利用していない人のニーズはなかなか収集できないものですから、常連と呼ばれる一部利用者によるニーズ構成になるおそれもあります。

それもふまえて、その年々少なくなる資料費で、同じような資料の中から選んで購入する選書という仕事を図書館員はやるのですが、「今必要でなくてもいつか利用される本だろう」とか、「こっちは説明が細かく書かれているなぁ」とか、色々理由はありますが、どちらかというと(一般認識的に)しっかりした物、定評のある著者の物の方を選ぶ傾向にあるような気がします。
だから、そういう本の方が優先順位が高くなるので、優先順位の低い本はやはり買われない。各図書館が『選ぶ』という人の手を介したことをする限り、同じような構成になることが多いし、以前例に出したTRCの『新刊全点案内』という選書の友も成り立つことになるわけですよね。(図書館でよく買われそうなものを主にストックする方式なので。)

そうなると、たまに「図書館員が本を選ぶというのは検閲みたいなものじゃないですか?」と言われることがあります。
確かに、選んでいるということは、選ばれない物は除外されているとは思いますが、予算的に泣く泣くなんですし、何も「この著者の本が好きだからこれとそれを比べてこっちにしている」というわけでないので、検閲ではないとは思うのですが、『検閲』の意味を調べてみると、『基準や規程にあっているかどうかを調べあらためる』という意味もあるので、もちろん収集基準などに照らし合わせているからなぁ…

まぁ、逆に資料の収集は全県で出版の割合から分野・内容・著者を機械的に購入することが決まっていれば、「県内のどこかには必ずあるはず」ということになるのですが、そういう収集方針にはやはり違和感が…
(それでも、県立図書館には市町村立図書館がどこも持っていない資料を中心に、機械的にでも購入していってもらいたいなぁと。)

「良書」「悪書」という表現はあまり好きではないのですが、『良書を選択して所蔵する』と「選書」の建前の裏には『悪書となるものを排除』という検閲に近いものがちらほら見えます。
選書では「資料が持つ価値」を判断しますし、検閲では特定の人に『不愉快な』部分があるかどうかを判断するということであれば、選書は利用者の知る権利を保護しようとしているのに対し、検閲は資料が利用者に及ぼす影響から保護しようとしているのでしょう。
そもそもその判断だって、人それぞれで価値観が違いますから、絶対的な判断でないですしねぇ…
もちろん独断と偏見での選書や検閲は誰から見てもまずいでしょうがね。

実際、うちの図書館でも「どうしてこんな資料が置いてあるんだ!」と言ってくる利用者もいます。
まだ、直接言っていただけるのなら、(話が平行線(知る権利か教育的配慮かなど)になること多々ですけど)説明のしようがありますが、どうも(ずっと上の方の)上役や議員を伴ってもしくは経由して言いに来る方もいて、元々ちゃんと理解してもらえていない中で図書館としての正論を述べなきゃいけませんから、なかなか大変なことも多いです。(まず「司書」(私の現在の職名)を「書士」と呼ぶのをやめて欲しいなぁ…笑)
今の直属の上司がまだ図書館に対して比較的ちゃんと理解してもらえているから、良いのですが、異動になったらきっと孤立無援の状態です。ふぅ。

確かに、図書館のあり方などをしっかりPRしなきゃいけないのはわかりますが、普段図書館を利用していないで、たまに来館したかと思えば「役所では当日の新聞でも複写してんのに、なんで図書館はしないんだ」(当日の記事の複写を頼みに来て、私がノーと言ったのが不満らしい…)とか、一から説明してちゃんと聞いてくれれば良いのですが、いかんせん、そういう方々はちゃんと聞いてくれないことも多々。

現在の図書館の性質上、主に教育委員会があって、(予算の関係も含め)首長部局があって、予算は議会の議決という形なので、良い意味の圧力であれば構わないのですが、変な圧力が多々あるので、やっぱり図書館は地方自治体とは別組織でないとだめなんじゃないかな…

まぁ、まぁ、話は逸れそうですが、選書一つとっても、
・図書館の蔵書
教育的配慮を中心にした制限は必要v.s.知る権利を満たすため特別な制限はできるだけしない
・ベストセラーの複本
利用者需要はあるのだから資料費に影響がない範囲で複本購入v.s.図書館として各館1冊あれば良い
・職員によるリクエスト
利用者としての側面でのリクエストと考えるv.s.選書に影響が出るので控える
など、細かいものも(宗教本や漫画の受入れについてやシリーズもので購入しているものと同系統の別著者の本(科学ものなど)の購入(蔵書構成優先か多様性優先か)など)含めると選書会議などでも意見が分かれること多々なので、「本当に良いのだろうか…」と悩むことも多いです。

私自身、自信を持って選書できているかと言われると、同じ本でも感じ方は十人十色ですので、「(私が選んだ本より)同じような内容だったらこっちの方がわかりやすい」という利用者もいることでしょう。
なので、他館の購入状況が気になってみたりするのですけど、「うわ、これ買ったのうちだけか…」とか一喜一憂してみたり。(そのくせ、相互貸借で依頼が来るんですよね…そういうの。他館の予約ばかりで外回り(相互貸借で貸出される)ものも多いです。)

出版点数や売り上げに左右されないものも購入するのが図書館の強みだと思うのですが、人によっては「売れる=需要」と考える人もいて、その調整が難しいのですが、評判の良い図書館のベテラン司書達の頭の中の選書判断基準をフローチャートにしてみると、面白いかも?
本のデータを事細かに入れると「図書館所蔵確率64%」とか表示されるような。笑
こういうのは、また専門性を失わせるものかもしれませんが、ベテラン司書のノウハウや経験を次世代の担い手がうまく受信できない現在であれば、「あのベテラン司書が退職したら蔵書に偏りが出来た」と言われないようにしたいのと、1年目の司書だろうと50年目の司書だろうと同じようにしっかりとした選書が出来るためには、必要だろうな…

収集の自由はあっても、予算的・立場的・経験的不自由がある現実。笑

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コメント

議員の圧力なんて、ありませんよ。議員が図書館に問い合わせただけ。圧力といえば、他県から監査請求を出してる議員にこそふさわしいと思いますね。

投稿: 事実確認 | 2008年12月11日 (木) 02:25

事実確認さん。
コメントありがとうございます。
「BL蔵書問題で圧力によって」の部分ですね。
確かに、文面を見ると議員さんの圧力と書いているようにも
見えますね。(後半に議員さんが来た話も書いていますし。
こちらはうちの場合だったのですけど。)
その点は謝ります。すみません。

私の意図した所は「圧力団体」や「外からのクレームによる外圧」
という意味で「圧力」と書いたつもりで、そこの議員さんからは、
問い合わせであったことは存じています。
(後半のは教育委員会や首長や人事課や議会などが圧力にな
りうる意味での「圧力」です。)

監査請求の話も存じておりますが、確かに、堺市民だけでも
良いのになぁ…と思っていました。(堺市民全員が当初の扱い
に納得いっているわけではないでしょうし。)

投稿: トーネコ | 2008年12月11日 (木) 19:48

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