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選書ノウハウをどう伝えるか

 前回、県立図書館の話に触れましたが、神奈川県立川崎図書館って立地のせいもあってか、蔵書構成は普通でない部分もあるんですよね…
 だから、まぁ、サーチャーにお金を払って調査してもらうより、無料の部分で事足りることがあるってのは、このご時世では助かる人も多いのはわかるし、図書館様様と思われるのは悪い気はしません。

 ただ、全ての県立図書館で同じだけのサービスが受けられるかというと、県立レベルでさえ、各館に特色があって、特定の分野を重点的に収集してみたり、貸出数が増えるような蔵書構成にしてみたり、ずっと滞在したくなるような雰囲気だったり…ほんと様々です。
 でも、財政難をはじめ、館の方針転換だったり選書担当者の変更でガラッと変わることだってあり得ます。

 もし、各都道府県に1館、国立国会図書館並みの蔵書の図書館があれば(とはいっても、国立国会図書館でさえ全部あるわけでないのが難点なんですが)、地方だと行きにくいというのはあっても、ほぼ機会均等になるでしょう。

 しかし、現実にそうならないのは、出版されている量や流通にのらないものの量が膨大ということに加え、予算や物理的容量など、悲しい現実があるのは仕方ない(本当だったら仕方ないで済ませられないことなんでしょうけど)ことです。
 膨大な図書や資料群の中から、予算等に合わせて、各館の収集方針や利用者ニーズに応じて取捨選択して購入するのが選書というわけなのですが、最近、選書についての話が何箇所かで出たので、今日はそんな話題でも。

 さて、もうすぐ年度が終わるので、人事異動の季節なのですが、図書館職員にとっては、図書館から異動させられるかもしれないという不安なドキドキと異動してくる上司や同僚がどのくらい図書館について理解してくれる人なのかの不安なドキドキが合わさってドキドキしっぱなしな今日この頃なことと思います。

 システム操作や著作権の話などは、マニュアルや法解釈の説明書があれば、十分引き継げますし、レファレンスはもちろん経験がものを言うことが多いのですけど、簡単なものは業務端末上の操作でなんとかなることもありますし、本格的なレファレンスは個人戦でなく団体戦なのだからこれもなんとかなりますし、「これを調べる時にはまずこれとこれをあたってみる」というパスファインダー的なものを用意している館も少なくありません。
 もちろん、いつまで立っても赴任した時と同じレベルでは、大問題ですが、ちゃんと業務を学ぶ意欲があれば、着実に能力は上がります。
 しかしながら、選書については、確かにやっていく中で能力がアップするものなんですが、人によっては異動してすぐに選書をしないといけないことになるので、「選書ってどうやるの??」ということになります。

 大まかには、説明できるけど、全部を明文化するのは難しいのが選書ですからね…

 拙ブログは図書館関係者が見てくださる率が高いですけど、それ以外の方も見てくださっているので、図書館で資料がどうやって選ばれているか簡単に記述しますと…

1.新刊の図書リストが届く
 図書館への図書の卸業者は何社もありますが、いずれの場合も新刊となる図書リストが届きます。以前も取り上げましたが例えばTRC(図書館流通センター)では『週刊新刊全点案内』という冊子が毎週届きます。

2.担当者がそれを見て選ぶ
 選ぶと書くのは簡単ですが、難しいのがこの部分。
 大きい図書館であれば、分野ごとの担当者がいて、その中の該当分野から選びます。
 小~中規模であれば、およそ兼任ありで、一般書・児童書・参考資料・地域資料などを担当制にしていたり、小規模であれば、ひとまず全部担当ということで、一通り目を通します。
 ここでは大雑把に書くと、
 (1)資料収集方針や収集基準を満たすかどうか考える
 (2)蔵書構成や所蔵資料の新鮮さなどを考える
 (3)利用者のニーズや地域性、社会的な話題などを考える
 (4)資料に偏りがでないか公平性が保たれているか考える
 (5)予算の資料費を考えて週当たりどの程度買えるか考える
 ということなのですが、後でもう少し細かく書きます。

3.2の中から、選書会議などを経て購入する資料を決定する
 人数の少ない館では、担当者1名であとは館長がチェックしてというところもありますし、この時に、図書リスト以外の本(例えば、買い替え、リクエスト購入、複本、直販本など)も選んでいます。

4.システム等から発注する
 Webをとおして発注する場合やFAXなどによる発注をしているところもあります。発注先は、地元書店経由だったり直接卸業者であったりです。

5.資料が届く
 卸業者が直接または地元書店を通して装備(バーコードや背ラベル、フィルムコーティングなどをすること)した資料を図書館に送られて来て、図書館システムを導入している館にはその基本となるデータを送付されます。
 そうして、データを修正したり微調整して、納品された資料をチェックして、各館の新刊コーナーに配架されます。

 まぁ、流通している本を選ぶ場合の流れで、寄贈本とか、地域行政資料とかはまた別な流れで図書館に入ってくるのですが、割愛しておきます。

 ということで、こういう流れが1週間の中で行われているのですが、客観的にみると不思議だと思いませんか?

・週に1000冊以上の本から数十~数百冊選ぶのにどれだけ早く選んでいるのかと。

・図書のリストだけで必要な本がわかるのかと。
(まぁ、前に実際に聞かれたんですけどね…)

 図書のリストといっても、『週刊新刊全点案内』では、簡単な書誌情報に加え、あらすじレベルの内容も紹介されていますし、それ以外の図書リストについても、およそ分類ごとに並べられていることが多いです。
 そうすると、そこは図書館ですから、「この分野のこれが自分の館には足りないなぁ」と思っていますから、狙い目の分野は理解しているはずです。

 (1)はどちらかと言うと抽象的な表現が多いですから、個人的にマニアックなものや極端に主張が偏っているものでなければ、クリアできます。
 (2)も自分の館の資料を全部読んでないにしても、「このくらいの割合でこんな本が入っている」というのは大雑把にわかりますし、分野として分類番号で検索したり、件名(図書の内容を簡単に表したもの。件名で検索すると必要とする同じような資料が検索できます。)を使うと、「この内容の資料の最新は古いから買っておこう」など細かく知ることができます。
 (3)は普段から色々な情報にアンテナを向けつつ、カウンターでの利用者とのやり取りなどでわかることが多いですし、流行という意味では、同じような内容の本がリストに載るので、案外気付きやすいものです。
 (4)は客観的な主張の本が出てればそれを優先しますが、「反○○」と「○○推進」が偏らないように購入すれば良いです。
 (5)は普通に予算を50週くらいで割り算しておけば、目安はできます。
 なので、直観的には簡単そうなのですけど、図書のリストだけでは実際に中身は見ていませんから、見計らいといった直接見ることができるサービスを利用したり、実際に書店で見たりといったことも、日ごろから選書力を高めるためにやっています。

 でも、実際問題として、この流れで、簡単に選書はできません!!

 よく聞かれるのが、「AとBと同じような内容の本が同時期に出版されたとき、なぜAを購入することにしたのか」ということです。
 その内容の本を購入することになった図書館であれば、全館Aを選ぶかというと、そうではなく、実際にBを選ぶ館もあるわけですし、Bを選んだ館が変かといえば、Bの方を読みたい人に相互貸借で借りられるという点で、選択の多様性を保証する意味では正しい選択だったりもします。

 『週刊新刊全点案内』の後ろの方に約半年前くらいの号で売れた数がわかるリストが出ているのですけど、0冊はおいておいて、1冊という本を購入した館って逆にすごいなぁと思います。
 そういうことからも、著者名や出版者名から「この人(出版社)は○○に定評があるから、同じような内容なら買いだな。」って判断が多いですけど、司書だから100%が選ぶとは限らないのが、選書ノウハウの明文化を難しくしているのだと思っています。

 それに加え、所蔵のない資料も相互貸借で借りることができるというのも大きいでしょう。
 所蔵のない資料のリクエストが一切ない図書館って聞いたことがありません。新刊や簡単に購入可能なリクエストであれば予算のある限り、基本的に購入している館はまれにありますが、相互貸借もしなくて良い館って…(もちろん、利用が極端に少ないとか、そういう仕組みが浸透していないとか、リクエストという行為が皆無とかは除いてですけど)

 つまりは、選書をどれだけ頑張っても多かれ少なかれ選定外の要望は出てきます。
 そうであれば、極端な話、新刊図書リストの5つ置きに購入しても図書館として成り立つ場合があるんじゃないか(それだと選書に関して専門性云々はなくなるんだが。)、だからと言って、そんな大掛かりな実験を自分の自治体を巻き込んでやるのは無理ですし…と思うこともあります。

 また、通常の図書館であれば、選書は客観的に見てその館で必要とされるであろうと考えられた図書が選ばれて購入されるわけで、図書館職員の趣味や関心で購入されているわけではないのですが、その一方で、その職員の趣味や関心で購入したからと言って、かなりマニアックでない限り、同様な趣味や関心のある利用者の需要を満たすわけですし、もちろんそればかりというわけにはいかないですが、偏りにだけ気をつければ、選書として成り立つのではないかと思ったりもします。

 実際に、その場合とは少々異なりますが、利用者のリクエストで購入した図書はよほどのことがない限り、複数回貸出されますし。
 今は極端なことを書きましたが、極端じゃない場合としても、職員によって、ある分野に強い弱いというのはあります。

 例えば、医学系に強い司書がいれば、闘病記文庫の他にもその病気の人が関心を持つであろう資料を選んで購入します。それがその館の特色となって利用者の中にはそれを目的で利用する人も増えます。
 では、その司書が異動や退職したら、どうでしょう?
 蔵書構成の比率的に、医学系が若干多めに購入されることになるのですが、その司書の時代よりちぐはぐな選書だったりして、数年後にはその司書の選書したものも古くなりますので、使えないことになりかねません。
 確かに、長期的展望に立ってだの、重点的に購入だのをしても、成長する有機体というわけではないですが、良くも悪くも変わっていくのは変えられません。
 だからといって、特色もなく無難な選書だけというのも、図書館の需要的にどうだろうと思います。
 大きな図書館ではそんなに感じないかもしれませんが、小さな図書館であれば、4月以降の新刊が大きく変化してしまうかもしれません。

 では、どうすれば良いかといえば、ベストなのはノウハウの伝授です。それもできるだけ具体的な。
 例えば、公式twitterが4月からつぶやかなくなったとか、つまらないつぶやきになったとか、館の方針転換がされたのでなければ、中の人が変わったからで、やりかたのノウハウは伝授されても、どういうことをつぶやくかの感覚的なノウハウが伝授されていないわけです。
 選書は私が考えるに、最もノウハウを伝えにくい業務だと思います。
 実際に司書の判断が絡むので、その判断をフローチャートにすることで、システム化できそうな感じもするのですが、ガラガラポンで「Aは購入、Bは見送り」とはならないのは、8割の司書が選んでも2割の司書は選ばないこともあるわけですし、前述のように色々な本が選ばれることで多様性は相互貸借により保証されるわけなので、間違いではないですからねぇ…

 そこで、長い目で見て変わっていくのは本当に仕方ないことなのですが、ノウハウを伝えるために、どうすれば良いか考えてみました。

 ・判断に関するツールがあれば、開示しておく(例えば新聞の書評欄だったり、インターネットのURLだったりも含む)
  出版後の場合なら、誰かが評価しているわけですから、簡単ですが、出版に前後しての判断をしないといけない部分なので、例えば、「この人(出版社)は○○に定評があるから、同じような内容なら買いだな。」的なものを作っておくと、新しく赴任した人も参考にできるかと思います。

 ・新刊図書リストに選んだ理由を簡単にメモしておく
  後任の人が見直す時間もあまりないかと思いますけど、説明責任ではないですが、簡単なメモでも、選書で何を見ているのかポイントがわかり、選び方が伝わります。

 ・引き継ぎ書にプラスして「こういう考えで選んでいる」という想いを表しておく
  同じ選び方はできないとしても、明文化されることによって、その図書館での選び方がわかります。

 では、逆にそういうノウハウが伝授されなかった場合は、どうするか。 

 ・まず、その図書館の蔵書を見ておく
  どの道、図書館を把握する必要があるので、異動が決まってから赴任する前でも、図書館をじっくり観察しておきます。そうすることで、「この分野(著者)の本多いな」とか「ここは古い本が多いな」とかわかります。多いところや新しい本はよく購入する部分で、古い本はあまり購入しない部分ということですし。

 ・数か月間の新刊図書リストと所蔵資料を見比べる
  メモではないにしても、アンダーラインが引いていたり、著者名に○がついていたり、件名に冊数がメモしてあったりしていることもありますし、選書会議や選定リストだけでは、その時どんな本が出ていたかわからないこともありますから、見ておく必要があります。

 ・著者や件名で検索をかけてみる
  多いから買うのか少ないからあえて買うのかは、後任の人の判断ですが、その館の癖がわかるかと思います。

 それ以外で、ノウハウではなく選書眼を鍛えるためには、「1に情報収集、2に情報収集、3、4は図書館把握で、5に情報収集」ですかね…
 ニュースや新聞や書評誌を読んだりすることはもちろん、書店を数件まわって面置き・平置きの本やポップのある本をチェックすると、時代の流れもわかりますし、選ぶのが苦手な分野でもなんとかやっていけます。
 自分の図書館の本を見直すのも図書館把握です(図書の動きの善悪しもわかるし)が、他の図書館も見て回って「自分の館にないこの本はどうして購入されたか」と考えることも勉強になります。

 ということで、ぐだぐだ書いてみましたが、選書は図書館の要ではありますが、絶対に正しいという解もありません。
 システム化するとしたら、ウェイトの付け方が非常に多岐にわたり、細かくしないと使えないシステムになってしまう気もしますが、参考にはなるでしょう。
 裏技チックに、数週間待って他の館の様子を見ながらという方法もおそらく可能だったりもします。

 でも、十人十色とは言いますから、その利用者の要求は様々です。一生懸命選んでも選ばなくても図書館としては成り立つかとは思いますが、「この館(もしくは分野)のおすすめ本は何ですか?」という利用者の問いに「この館にある本は全ておすすめできます!」と言えるようになると、とてもやりがいがあることでしょう。

 図書館の資料購入費は税金からなっていますので、気軽には購入できませんが、「選書どうしよう…」と悩んで気を病むよりは、気楽に考えて、利用者に「ねっ、その本いいでしょ?」って言えるように、購入した本をどう魅せる(見せる)か、利用させるかを重点に考えると、年数が経てばきっと良い図書館になることと思います。

 ちなみに、私はここのところ、児童サービスにウェイトを置かざるを得ない立場にいるのですが、前任者が児童畑な人だったため、私の考えとは異なる部分も多く、なので、最初のうちはほぼ踏襲していましたが、徐々に私カラーになっている感じもしています。笑
 まぁ、利用者から評価されたし、それはそれでいいのかな?

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コメント

ほぼ同意見です。選書は非常に悩ましいですよね。
現実には、選書は買わない本を選ぶ作業ですから、版元の思いも考えちゃって辛いです。
これ、税金で買う以上は、説明責任ってところに帰するのかな?って気がします。
Yonde!の議論でMさんが仰っていた「その本を買った理由を書こう」という話と繋がりますよね。これって。

あと、選書担当者には各分野の初学から専門手前までの学術知識は要求したいです。
児童書や絵本なら、古典的名作の知識から最近の売れ筋までの情報を求めたいです。
だから、担当を割り振って休館日に館内研修として何か発表させるとか、もっと緊張感を持たせるために市民向けに選書担当者の発表会を毎月しちゃうとか、何か手はあるのかな?と思います。
館によって考え方は様々ですが、選書担当の声が表に出てくると、市民にとってもこちらにとっても良い刺激になるかなぁ、なんて気がしました。

投稿: 田圃兎 | 2013年3月26日 (火) 16:34

> 田圃兎さん

コメントありがとうございます!
ほんと選書は悩ましいですね。同時期に4カ所くらいで同じような話が出て同じような論調になってしまいましたが…笑

説明責任はやはり付いてまわりますけど、「AとBでなぜAか」までは厳密にできない部分もありますし、聞いてきた人が逆のBを推していた場合、説得できるまでの説明が可能かというと…

以前、雑誌の購入に関して答えに窮した経験があり、買わなかった理由というよりは買えなかった理由になったりして煙に巻いてしまったりしました。

異動のある中、専門手前までの知識は経験年数が増えれば可能なのですけど、このご時世難しいですから、専門手前っぽく見せる知識をどう確保するかが、ノウハウになるようか気もします。
図書館員は博識でなくても、それらしく見せられる資料を探せる能力があれば良いとしないと、小さな図書館だと全分野専門知識が必要になってしまいますし。

まぁ、知識や情報はあるだけあっても無駄にはなりませんけどね。

ではでは、今後もよろしくお願いします。

投稿: トーネコ | 2013年3月27日 (水) 08:06

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